2009年05月12日

でっち上げ茶番劇 ストレステストの七不思議

7日に発表されたストレステストは、見事に銀行の健全性を証明.政府の思惑通り、市場がパニックに陥ることはなく、大成功におさめられました.

しかし、ストレステスト内容そのものは、突っ込みどころの多い「でっち上げ茶番劇」にすぎず、今回あらためてストレステストの問題点を考察してみました.

題して、「でっち上げ茶番劇 ストレステストの七不思議」

一.銀行損失見積り額 5990億ドルの謎
二.有形資本(TCE)定義の謎
三.追加資本 750億ドルの謎.
四.公表事前のリークの謎
五. 金融当局VS銀行交渉の謎
六.会計ルール変更の謎
七.少ないローン損失見積りの謎

どうぞお楽しみください.


其の一 .銀行損失見積り額 5990億ドルの謎 

「最悪シナリオ」で19銀行における今後2年間のストレステスト損失見積り額は、5990億ドル.一方IMFでは、アメリカにおける不良債権額は3.1兆ドルと見込み.
 
FDIC加盟銀行の総資産14兆ドルに対して、トップ19銀行の総資産額は12兆ドル.ストレステスト対象の19銀行はアメリカ全金融機関の8割とみると、IMF試算をベースにした19銀行の損失額は2.5兆ドルあることになります. 

ストレステストの「最悪シナリオ」での銀行損失額は、IMF試算の25%って、あまりにも少なすぎ?
 


其の二.有形資本(TCE)定義の謎


銀行の健全性をみるのは有形資本比率が4%以上.この経済が不安定なときに25倍のリバレッジとなる有形資本比率4%は甘すぎます.
 
さらに今回のテストでは、有形株主資本(tangible common equity)を使用するとされていたが、実際に利用された数字は"Tier 1 common capital"というもの.
 
 
051009 TCEとTier 1 common capital ratio.gif
 
051109 TTier 1 Common VS TCE.jpg
 
 
おおくの銀行が有形株主資本(TCE)で「失格」になってしまうから、今回はTier 1 Common Capitalを適用しようということでしょうか?もし有形資本を使用していれば、銀行はさらに680億ドルの資本不足となっていたそうです.(Source: WSJ記事
 
 
其の三.追加資本 750億ドルの謎.


ストレステストでは今後2年間で最大5990億ドルの損失を見込んでいます.それなのに、たったの750億ドルの追加資本は少なすぎるます. 其の二の有形資本(TCE)が使用されていれば、追加資本額は1430億ドルと約2倍でなければならなかったのです.
 
なぜ750億ドルなのでしょう?
 
総額7000億ドルあったTARP(不良資産救済プログラム)うち、現在1100億ドルしか残っていないとされています(関連記事).議会に追加の資金を米議会は拒否するとみられ、要求できそうにないオバマ政権にとって、やっぱり追加資本は1100億ドル以内におさめたかった?
 
 
其の四.公表事前のリークの謎
 
遅れに遅らせたテスト結果の公表.公式発表は5月7日だったのに、4月28日からCiti, Bank of Americaに資本増強が必要との報道がはじまりました.そしてリークの嵐.しまいには公表一日前までに、ほぼ正確なテスト結果がリークされていました.
 
もし、これらリーク情報は市場に大きな影響を与える重要な情報で、これが一般企業であれば、証券取引委員会(SEC)がインサイダーで摘発されるような案件です.
 
政府はもちろん摘発されず、うまく情報を流し市場混乱せず公表できた、これは金融当局の大勝利!
 
 
 
其の五. 金融当局VS銀行交渉の謎
 
ストレステスト結果を銀行に伝えてから、金融当局は公表前に銀行に交渉をゆるしました.テスト発表後、正式公表した追加資本要求額は、交渉前のオリジナルテスト結果のと比べると大幅に減らされていることがわかりました..
 
銀行

オリジナルテスト結果
資本不足額

交渉後の資本不足額
Bank of America's $500億ドル $339億ドル
Wells Fargo $173億ドル $137億ドル
Fifth Third Bancorp $26億ドル $11億ドル
Citigroup $350億ドル $55億ドル
Source; WSJ

シティなんて350億ドルから55億ドルさせたのだから、よっぽど法螺か、脅したのか?やっぱり、シティの追加資本55億ドルは少ないという印象は間違っていませんでした.各銀行がんばりました.こちらは銀行の勝利!
 
このテストは誰のため?
 
勝者: 銀行 VS 敗者:米国民 (ブゥー!)
 


其の六.会計ルール変更の謎
 
2009年に金融機関への会計ルールが変更され、2009年1Q(1月−3月期)に大幅な利益効果がありました.僕はこれを合法的な粉飾決算だと思っていますが、この利益効果が今回の有形資本に組み込まれています.
 
さらに、4月14日にストレステスト結果をリークしたTurner Radio Networkのブログでは、リーク結果とオフィシャル結果では、新しい会計ルール(FAS FSP 157-4)を適用していたことが分かりました.
やっぱり、すべての銀行が「合格」できたのは、会計ル−ル変更のおかげ?
 
 
其の七.少ないローン損失見積りの謎
 
051109ストレステスト ローン損失比率.gif
 
ストレステスト「最悪シナリオ」でのローン損失率は、First Lien Morgages(第一順位抵当付き住宅ローン)の損失率は8.8%、Second-lien Morgages (第二順位抵当付き住宅ローン)で13.8%で、ローン損失率は妥当でしょう.
 
しかし、Wells FargoのSecond-lien morgagesの13.2%損失率は低いとの指摘がある.
 
051109 Wells Fargo .gif
 
Wells Fargoは住宅価格が大幅に下落したカリフォルニア州、ネバダ州、アリゾナ州など西海岸に多くの住宅ローン債券を抱えているはず.当然住宅価格が下落しれば損失額膨らむはずなのに、Wells Fargoが、Second-lien morgagesで全体平均より低い13.2%のローン損失率は謎.
 
 
さらに、最悪シナリオでの商業物件ローン(Commercial Real Estate Loan)の損失比率8.5%も、かなり低い数字.
 
FT Timesでは商業物件の不動産落ち込みはひどく、新たに2兆ドルにもおよぶ損失が金融関係に及ぶ可能性があると危惧しています.
 
2兆ドルは大げさとしても、「最悪シナリオ」でのストレステスト商業物件ローン530億ドルの損失見込みは、少ない?
 


結論
 
米政府は、「ストレステストで失格となる銀行はない」と公言している以上、ストレステストはどのような環境下にあっても銀行が十分な資本を持っている(健全である)ことを証明するためのテスト、すなわち実態を伴わない「でっち上げ茶番劇に過ぎないです.
 
政府の巧みな情報操作により、ストレステストは「銀行は思ったより健全だ」ということを証明し、株式市場は持ち直し.公表前にはさまざまな憶測、噂、批判等はありましたが、このストレステスト公表は大成功に終わりました.
 
今回のストレステスト結果発表で、金融危機によっておきた市場のパニック(乱降下)は、ひとまず落ち着きそうです.ストレステストを利用(=「銀行(株主、債権者)が勝ち」、「国民が負ける」こと)によって、もしかしたら金融危機は救えるかもしれません.
 
銀行は「低借入コスト」「高金利で貸し」で収益性が向上.住宅ローン、クレジットカード、商業物件ローンの損失も「最悪シナリオ」通りで、上げた収益から不良債権を少しずつ処理していく.数年でアメリカ経済は回復するかもしれない.
 
しかし、これは薔薇色シナリオ.
 
短期的には、政府の茶番劇で金融危機は救えても、次の実態経済の悪化を食い止めることはできないと思います.さらなる企業収益の悪化、失業率上昇、ローン延滞率上昇、クレジットカードの与信限度額の引き下げ(=信用収縮)、そして消費の減速がおきます.
 
2008年は、金融危機が株価を引きさげていましたが、これからは実態経済の悪化が市場に大きな影響を与えていくことになるのではないでしょうか.
 
 
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posted by 小崎壮平 at 15:52| ストレス(健全性)テスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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